最初から最後まで「扉は閉ざされたまま」で解決するミステリ
扉は閉ざされたまま/石持浅海
何といっても特徴は、最初から最後まで密室の扉が閉ざされたままで物語が進行していく、というところですね。
密室が開かれないということは、死体も発見されないということです。
そんな状態でどうやってミステリが成立するのでしょうか?
こんなひとにおススメ
- 倒叙ミステリが好きなひと
- 犯人と探偵の頭脳戦が好きなひと
さて、今回は倒叙ミステリということで、序章ですぐに犯人が被害者を殺害する場面から物語が始まります。
倒叙ミステリというのは、最初に犯人と犯行方法が描かれるタイプのミステリですね。
読者が犯人を知っている状態で、犯人と探偵役の会話、駆け引き、心理戦などを楽しむことができます。
ただ最初に殺人が行われる時点では、読者には犯人と被害者の人間関係も判りませんし、ここがどんな場所なのか、どうして殺すことになったのかも判りません。
本書の序章でも、唐突に犯人の視点で部屋の状況や眠っている被害者の様子などが描かれ、その後浴槽での事故死に見せかけて殺害する様子が淡々と描写されていきます。
そして最後に、ドアストッパーに簡単なトリックを仕掛けて、密室殺人完了となります。
で、ここからようやく本編が始まるわけですね。
少し時間をさかのぼり、大学の同窓会で7人の旧友がペンションに向かうところから物語が再開します。
この先は通常の小説と同じように、登場人物の名前や特徴が紹介されていきますが、この時点で読者は犯人と被害者を知っていることになります。
そして犯人は殺人がバレないようにどういった行動をとるのか、また探偵役はどのような推理から犯人を追い詰めていくのか、そのやり取りが面白いところです。
しかしそういった面白さは、倒叙ミステリ一般に言えることなのですが、この本の特長的なところは、「扉が閉ざされたまま」というところです。
序章で犯人が扉を閉めて密室殺人を完了させますが、その扉が開かれるのは最後の最後、物語が終わるときです。
つまり、死体が発見されないどころか、死体があるかどうかも判らない、部屋に入ることもできない状況で物語は進んでいくのです!
これだけを聞くと、そんなことができるの~?と思うかもしれませんね。
しかしそんな状況での犯人(男性)と探偵役(女性)、頭の切れる二人のやり取りが物語をぐいぐいと引っ張っていきます。
様々な理由により扉を開けることができない状況にも関わらず、少しずつ核心に近づい行くところに読者は引き込まれていくわけですね~。
最終的にはその探偵役の女性によって犯人が特定され、さらに読者にも判らなかった犯行の動機まで明らかにされることになります。
いや~、ほんのわずかな情報から(死体も見ていないのに!)犯人を特定していく展開、そしてなぜ「扉は閉ざされたまま」である必要があったのか、そのあたりが見どころでしょうか。
息詰まる二人の頭脳戦、おすすめです。